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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3242号 判決 1950年3月09日

被告人

朝間正一

外一名

主文

被告人西垣丈助に対する本件控訴を棄却する。

原判決中被告人朝間正一に関する部分を破棄する。

被告人朝間正一を懲役八月に処する。

但し被告人朝間正一に対し参年間右刑の執行を猶予する。

理由

検察官提出の控訴趣意第二点について。

所論のように原判決は被告人朝間正一に対しその記録不作成の犯行を麻薬取締規則及麻薬取締法の両罰則規定に跨つて行われた職業的集合犯としての一罪と認定したのであるから、之に対しては単純に新法の麻薬取締法の罰則を適用すれば足るのである。しかるに、原判決は之を一所為数法の場合にあたると考え刑法第五十四条第一項前段を適用し重い同法の麻薬取締規則の罰則に従つたのは正当ではない。しかもその法定刑は旧法においては三年以下の懲役であり、新法においては一年以下の懲役刑であるから、この法令適用の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決はこの点において破棄を免れない。

(検察官の控訴趣意第二点)

原判決は法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすこと明かであるから破棄すべきである。即ち原判決はその理由に於て被告人朝間正一が昭和二十三年四月初旬頃より昭和二十四年四月四日頃迄の間被告人方自宅其の他で麻薬である塩酸モルヒネ燐酸コデインを施用し又は施用の為交付しながらこの旨の法定の記録を作成しなかつた事実を認定し之に対し麻薬取締規則第五十一条、第五十六条、麻薬取締法第四十二条、第五十九条刑法第五十四条第一項前段、第十条を適用し重き麻薬取締規則の定むる刑に従う旨説示されているけれども右認定事実に対する罰条は麻薬取締法第四十二条、第五十九条であつて、麻薬取締規則及所謂一所為数法に関する条文の適用の必要を生じない。何とすれば前敍認定事実は麻薬取締規則(昭和二十三年七月十日廃止)及麻薬取締法の両罰則規定に跨つて行われた継続犯としての一罪であるから斯かる場合は単純に新法であるから麻薬取締法のみ適用すべきである。(仮りに別罪として二罪となるも一所為数法となることはない)右単純新法適用に関しては同趣旨の(連続犯、牽連犯に関しての)大審院判例として大正四年三月二日(判決録第二一輯第二〇〇頁)大正十二年一月二十六日(判決集第二卷第三五頁)昭和九年六月二十三日(判決集第一三卷第八九七頁)明治四十二年十一月一日(判決録第十五輯第一五〇一頁)等がある。

然るに原判決は前敍の如く麻薬取締規則と麻薬取締法の右罰則を適用し更に刑法第五十四条第一項前段第十条を適用して重き麻薬取締規則の刑たる三年以下の懲役又は五千円以下の罰金の範囲内の刑に従い訴因第二の刑を併合加重して量刑せられたが右に述ぶる如く右認定事実に対しては麻薬取締法第四十二条、第五十九条(此の法定刑は一年以下の懲役又は一万円以下の罰金)を擬律するを以て足るのであるから判決に影響を及ぼすこと明瞭である。

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